4月1日の入社式の後、長くつづいた研修期間もやっと終え、同期入社組みは仮配属の職場に散って行った。
散っていったといってもたった5名の同期生だけれど。
多摩営業所、埼玉営業所、神奈川営業所、亀有本社そしておいらのいる東葛営業所の5か所にそれぞれ新入社員として配属された。
一応9月までが仮配属と言われたので正式には10月1日にそれぞれの本社および営業所の従業員として認められることになる。
入社式ではまず社長の講和。将来会社を背負って立つ人材を採用したとか、若い力を発揮してほしいとか、ずいぶん大きな期待を持っていることを熱っぽく語ってた。
でも同時に学生と社会人とは違うんだぞということも口を酸っぱくしていっていたような気がする。
期待をかけてくれてうれしいという気持ちと一緒になんだかプレッシャも感じた一週間だった。
まあまだ仕事についていないので実感がわかないだけかも知れない。先輩も同じ道をたどってきたのだからそんなに心配もいらないのかもしれない。
社長講和に続いて行われた研修は次のようなものだった。
まず初めに「会社の仕組み」という題で当社が扱っている商品とそれを売っているお客さん、そして商品の仕入から販売、回収という流れを説明してくれた。
そしてそれをサポートする配達業務や管理業務などがあり、自社でやっている場合もあれば外部の会社に頼んでいる場合もあるなんていうことを説明していた。
また、研修では先輩による体験談もあった。
5年前に入社して今はトップ営業マンとして活躍している先輩が入社後に経験した苦労話や成功体験について説明をしてくれた。
研修期間の中ではこれがいちばん面白かったな。
実際のところ他の内容はお勉強が多くて正直頭に入らなかった。
研修も今日で終わり、明日から東葛営業所に仮配属だとのことだ。
いよいよ社会人として本格スタートということだが、今、おいらはなぜこの会社に入ったのか思い直している。
こんなこと他人(ひと)に言ったら「いまさらそんなこと言うな」と叱られると思うが。
それは去年の春のこと。多くの企業が集まる就職説明会に参加した。
おいらもそうだな、10社程度の企業ブースを廻り面談をした。
そしてその中の2社から内定の打診をもらい、最終的に決めたのがこの会社だった。
なぜ決めたかというとあまりはっきりした理由はない。
金山商会は東京の北部に位置しているがもう一社は京浜工業地帯でもある大田区の会社だった。
もともと東京で働きたいという希望はあったものの、おいらの実家が福島なので東京の北の方だとなんとなく福島に近いという感覚的なもの。
帰省の時にかかる時間はどちらもほとんど変わらないのに何となく「福島に近い」という気持ちの問題だった。こんなこと他人には恥ずかしくて言えないが。
また、おいらは一応大学を卒業したものの、たいした勉強をしてきたわけではない。
新聞を見ると大学や大学院で専門的な研究をしてきた学生が一流の自動車メーカーに技術者として採用されるなどという記事が出ている。
しかしおいらは一応経営学部卒となっているが実際経営のことなどよくわからない。教科書にはいろいろ難しいことは書いてあったがもう忘れた。
こんなおいらでもビジネスマンとして務まるのかと内心不安でしょうがない。
でも時間は確実に進み、配属先への初出社はこれから8時間後になってしまった。
もう寝よう。そして明日からの生活に備えよう。